未来への
 橋を架ける

長く残ってきた社寺の建物に触れる機会をいただくとき、実は、宮大工の私たち自身にも貴重な学びがあります。かつて、一流の宮大工が手掛けたであろう社寺建築には、その土地ならではの風土や土壌を活かすための創意工夫が詰まっており、そこには先人らの声なき声が宿っています。私たちは、先人の仕事に触れることで、過去から学び、未来に残す建物を造るための技術と知識を得るのです。

社寺の建造物は、ひとりの人間よりもはるかに長く生き続けます。一代の大工が、たとえ生涯をつぎ込んで試行錯誤を重ねたとしても、先人たちが数百年間もの間に積み上げてきた知恵と技術の前には到底かなわないでしょう。

それでも、私たち一人一人の宮大工は無力ではありません。私たちが研鑽を重ね、技術を磨くことは、次世代の日本の建築文化の発展と、未来に暮らす人々の心豊かな生活につながっていきます。今を生きる私たちの仕事とは、過去と未来の間に橋を架け、受け継いだ知見とノウハウを後世に手渡していくこと。そうして、次の世代に残っていくような、価値あるものづくりに日々励むことです。

ものづくりは、
人間関係

若い頃、とある寺院の庫裏(くり)の建造を担当したことがあります。庫裏は僧侶の方の生活の場ですから、使い勝手が良いように、ご住職のご要望を密にお聞きしながら造っていきました。工期の終わり頃、ご住職から「次の改修もぜひ鈴木さんに」とのお言葉をいただき、大変うれしく感じたことを覚えています。

その後、私は当時勤めていた工務店を辞めて、次の職場に移ることになりました。ご住職とのお約束が果たせなかったことを心残りに思っていましたが、近年、全く別のご発注をきっかけに、このご住職と再会を果たすことができたのです。

何年も経ってから、こうしてご縁を再びいただくとは、不思議なこともあるものです。以前の施主様からご紹介いただいて新しい現場に出向くことも同様で、良い仕事をすればこそ、良いご縁が繋がります。宮大工の営業活動は、達者なセールストークではなく、日々の仕事の質と、施主様との間に築く信頼関係だと言えるかもしれません。

日本建築への
情熱を

ものづくりにおいては、つくり手の人柄と情熱が自ずと表れてくるものです。不思議なことに、同じ図面に基づいて正確に同じものを造っても、担当した宮大工によって、どこか雰囲気の異なるものが仕上がったりします。

現代においては、便利な電動工具の類も使いながら工事を進めますが、たとえば鉋ひとつとっても、機械の鉋では一定方向でしか削れず、細かい部分は手作業で仕上げていかねばなりません。つまり、仕上がりの品質を個人の手腕に頼るところも非常に大きいのです。そこが宮大工の仕事の厄介な点でもあり、また最大の面白さでもあります。

だからこそ、宮大工を志願される方は「ものづくりが好き」、「大工仕事が好き」という素朴な気持ちを大切にしてください。現場を通じて学び、研修にも参加し、日々の仕事を楽しんで自らを磨き、高めてください。そうして学び続ける姿勢こそが、あなたの造るものにも表れてくるでしょう。

思いを
未来へ届ける

ただ古いからといって、壊されてしまう建物のことを考えると、私はどうしても悲しくなります。かつて、施主様のためを思って一所懸命に仕事をされた大工の先人たちや、家主様とそのご先祖様の思いまで、建物と一緒に壊してしまうような心境になるからです。

私たち宮大工の技術は、古い建物に何度でも命を吹き込み、建物に宿る記憶と思いを後世に引き継いで繋いでいくための技術です。私たち宮大工もまた、彼らの思いを大切に預かる技術者として、ひとつひとつの現場に心を込めて対峙していかねばなりません。

私たち鈴木古建築は、志を同じくする仲間に出会えることを、楽しみにお待ちしています。